今日は高学年はメトロポリタン美術館に来ました。古代エジプトについて勉強するためです。美術館の外のテラスで少しだけ、「オシリス神」について担任が説明をしてから(オシリスの名前の由来、オシリス信仰発生の起源、オシリスが人間として生きていた時のこと、絵画に見られるオシリスの特徴ーー白い帽子、うなじについた魔除け、そして権威の象徴の杖と鞭など)、いよいよ館内に入りました。
始めに見学したのは、古代エジプトの126号室。館内地図をそれぞれに手渡し、行き先を告げると、三人の高学年の生徒たちは、レッツゴー!と宝探しさながらに元気よくエジプトコーナーへ。実際は今日から初めての参加となったDくんも、ほぼ初対面とは思えないほど最初からクラスメートに馴染み、三人で飛び跳ねるようにして目的地を探しました。途中大きなスフィンクスやヒエログリフの刻印された棺桶に目をやりながら、また大小の通路をぐるぐる通過しながら、ようやく奥の小部屋に着きました。 照明が落とされたその部屋には、マトリューシュカ人形のような入れ子式の、何千年も前に作られたものとは思えない色彩豊かな、歴代の王族の棺がずらりと並んでいました。その中には顔のない棺も。どうして棺の顔の部分だけ色が剥がれてしまっているのだろう?しばらく私たちは考え、多分その顔は金色だったので盗まれたのであろうという結論に至りました。その部屋に展示されている “Book of the Dead for the Singer of Amun, Nany” (ca. 1050 B.C)という、『死者の書』のパピルス写本に描かれている、オシリス神の姿を写生するのが、今日の第一の課題です。 ある生徒は、オシリス神だけではなく、その心臓の重さを測っている審判のシーンをすべて描ききってしまいました。別の生徒も「こんなの描けないよ〜」と一瞬たじろいだものの、やさしい筆使いで確実にオシリス神の特徴を捉えました。オシリスが持っている杖や王座などの細部もしっかり描けました。(黒の色鉛筆で描こうとしたそうですが、部屋の証明が暗くて青だった、というのも愛嬌です。また、筆入れからチョコレートが出て来たのにはびっくりしましたね。これも今日遠足に行く、お母様のやさしい心遣いでした。メットには食べ物は一切持込ませんので。) 次は、パピルスのような平面ではなく、立体的なオシリスの像を写生しようと予定していたのですが、もう既にお昼ご飯の時間もとっくに過ぎており、みんなお腹が空いてしまい、写生どころではなくなってしまいました。なので、地階のカフェテリアに行き、おいしいランチをいただきました。いつもは学校でしか会わない面々が、こうして公共の場でいっしょに買い物をし、お食事をいただくーーこれもまた親睦を深めるよい機会となりました。 食後はまた古代エジプトに戻ろうか、それとも2階の日本コーナーに行こうか、といろいろと考えましたが、ふとLちゃんが中世ヨーロッパの武器・鎧のコーナーに行きたいと提案したので、そちらに行くことにしました。ここは自然光もふんだんで、室内ですが天井も吹き抜けで、とても気持ちの良い空間でした。日本の刀や鎧もありました。剣や武具だけでなく(「馬にも武具をつけるのですね!」)銃やピストル、果てには中世イスラーム圏の宝石がちりばめられた短剣。とにかく二人の男の子たちは大興奮。今日ほぼ初対面だったとは信じられない自然な仕方で絆を深めた二人は、会話は英語になってしまっていましたが、とにかく楽しそうにあれこれおしゃべりをしながら武器を見学していました。そんな二人の姿には微笑ましいものがありました。(“Are they your children? They are SO excited about looking at these things!” と、担任の私は、見知らぬ人から声をかけられた程です。) その間、Lちゃんはティファニー製のエレガントな銀製の銃が気に入ったようで、ものすごい集中力とスピードでいくつものピストルのスケッチをしていました。それに触発されてDくんもその隣のケースに陳列されてあった小型のピストルを描きました。「この小さい銃は、trigger がないのにどうやって打つの?」実にすばらしい質問です。私も答えられませんでしたが、確かにこれら最小のピストルには引き金がないのです。写生することによって、つまり頭だけでなく、手をいそがしく使いながら事物の細部をじっくり観察することによって、生徒の内側から自然に湧いて出てくる「なぜ?」。スケッチをしなかったら、思いにも寄らなかったような疑問。子どもたちの学びにおいて、いや私たちが人間として生きていく上で、このように手足を動かすことによって活性化される思考、そうすることによってのみ内面から湧き出てくる好奇心の種を養うに勝ることはないのでは、と感動のあまりに私はその場で立ちすくみ、考えました。とにかく、武具コーナーには行くことさえ想定していませんでしたが、それぞれが楽しく有意義な学びの時間を持つことができて、良かったと思います。 もう3時になりましたので、その後は、セントラルパークに行きました。それぞれが木を写生したり、担任の言う通りに楽譜を書写する練習をしたり、たて笛の練習をしたりと、芝の上のピクニックマットに座り、静かに心地よく、しばしのひとときを過ごしました。最後に三人で木登り。10月とは思えない、まだ夏の日のように暖かい午後の日差しがようやく陰り始め、もっと長くこのまま芝の上にただずんでいたかったのですが、帰路に着きました。ブルックリンに戻ると、もう夕方5時を過ぎていました。長い一日、みなさんお疲れさまでした。また、朝から最後まで子どもたちの安全のために付き添っていただきましたLちゃんのお母様、ありがとうございました。おかげさまで滞りなく、充実した遠足の一日を過ごすことができました。 次回の授業(10月21日)では、遥かなる古代エジプトの情景を思い起こさせる水彩画と、『死者の書』の記述に基いたオシリスとイシスの要約文を勉強します。 小学部高学年担任 S先生 Comments are closed.
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October 2020
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